「お兄ちゃんー?いるのー?」
階段下から奈留が声をかけた。
「やっべぇ!ちょっと行って来るから!!
絶対この部屋から出んなよ!!!」
ユイに強く言って慌てて下へ降りた。
ダダダダダダッッーーーーー。
「おー、奈留お帰り。」
いつものように冷静を装う。
「ねぇねぇ、今日さぁママとパパ帰らないって。
さっき奈留のケータイに電話あった。」
ぉぃぉぃ、ラッキーじゃんかよ!!
これでユイが見つからなくてすむ。
「へー。そーなんだ。じゃ、夕飯どーする?」
「う〜ん。実は奈留、今日ゴハンいらないの。」
「へ?なんで?」
奈留は、にやっと笑った。
「・・・竜貴んちで食べる★」
竜貴というのは、奈留が親に内緒で付き合っている彼氏だ。
母子家庭で母親が夜の仕事をしているらしく、
奈留がよくゴハンの仕度をしに行く。
今日は親父達が帰ってこないから、おそらく泊まってくるだろう。
ったく・・・まだ中学生だろーが・・・。
「てめっ、親父がいねぇからって外泊かよ!!」
「お願いっ!パパ達に言わないでくんない??
竜貴と過ごせんの、久しぶりなんだ。
ねー、お願い☆」
兄としては男の家に妹をやるのは
なかなか心配・・・・
なのが普通だが、
その竜貴というヤツもなかなかいいヤツで、
奈留の話を聞いてると、奈留のことを
本当にを大事にしてくれているみたいで、
実はあんまり心配してないのが本音だ・・・。
すがるような奈留に、いつも俺は言いくるめられてしまう。
「・・・じゃあ今週中お前夕飯作れ。」
「えぇーっ?マジー??・・・・
・・・わかった。じゃぁ約束ね!
あっ、早く準備しなきゃ!!」
そういって奈留は自分の部屋へ入っていった。
「さて・・・と。俺も戻るか。」
部屋に戻ってみると、ユイは俺のベットですやすやと
眠っていた。ちくしょー、
寝顔もめっちゃかわいいし・・・。
俺は毛布をそっとかけると、しばらくユイの
寝顔を見ていたー。
「行ってくんねー!!!」
下で奈留の声がする。
「気ーつけろよ!!」
思わず叫んでしまったので、ユイが起きてしまった。
「ごめん!起こしちゃった?」
「ぁ・・私寝ちゃってた・・??
ごめんなさい、勝手に・・・。」
「いいよ。なんか疲れてるみたいだし、今日は
ゆっくりしてきなよ。そのベット使っていいからさ。」
「ありがとう。」
「てかさ、その服着替えたら??
濡れたまんまじゃ風邪ひくよ?」
「あ・・・。」
「ちょっと待ってて・・。」
俺はたんすの引き出しから
女物のTシャツとスカートを出した。
今年の学校祭で、女装喫茶をやったときに買わされたものだ。
ったくあれにはまいったぜ・・。
俺自身もあんなに似合うと思わなかった。
なんせ【ベスト看板娘】にエントリーされたくらいだから・・・。
俺男だけど。
結局グランプリには選ばれなかったが、堂々の三位に入ってしまい、
表彰式では女装したままだったっけ・・・。
そんなことを思い出しながら、その服をユイに渡した。
「勘違いすんなよ!?別にそういう趣味があるわけじゃねーから!!
ってかそれだけじゃ寒いよな・・・。
俺のでよかったらパーカー貸すけど。」
「比呂の服、着たい!」
着たいって・・・。
パーカーを渡して部屋を出る。
「俺下にいるから。」
リビングで、これから俺は何をすればいいのか考えた。
ユイは少なくともこの世界の人間じゃないし、
結婚式から逃げてきたってのもまんざら嘘じゃなさそうだし・・
そんなことを考えていると、
ピンポーン
客人だ。
誰だよ。ったく。
ドアを開けるとそこには・・・・
雛子がいたー。